お役立ちコラム

No.13
「リアル」を再現するモーションシステムで「理想」を体感、「安全」を追求

「リアル」を再現するモーションシステムで「理想」を体感、「安全」を追求

近年は映像に合わせて座席に動きを加えることで没入感を味わえる映画館や、屋内にいるのにまるで空を飛んだり海面を浮遊したり、乗り物で疾走しているかのような感覚を体験できるアトラクションが人気を集めています。技術の進化により動きの再現度は上がり、映像や音響だけではなく、匂い、風などの効果も付加できれば没入感はさらに増し、リアルではありえない理想の世界を体感できるかもしれません。
今回は「動き」でリアルを再現するJRCのモーションシステムを例に、その活躍についてご紹介します。

リアルにGを再現するモーションシステム(動揺装置)

VRや大型スクリーンの映像だけで錯覚による浮遊感や重力を感じたことがある方も多いと思います。その浮遊感や重力を、錯覚ではなく疑似的に体験できる装置がモーションシステムです。モーションシステムは自動車や航空機、船舶などに乗ったときに感じる動揺感覚を疑似的に再現できます。
重力加速度

動きを再現するための機器をモーションベースと言います。

image026軸モーションベースの主な構成

トップテーブルを支える足のような電動シリンダーが素早く伸縮することで、さまざまな動きを再現しています。上図のように電動シリンダーが6本で構成された6軸モーションベースは、前後、左右、上下、左右傾斜、前後傾斜、回転方向、または複合での6自由度の動きを生み出します。他にも、6軸よりも動きを制限した2軸(前後、左右)、3軸(前後、左右、上下または回転方向)などがあり、使用目的によりさまざまなモーションベースがあります。

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小型2軸モーションベース

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ジンバル式3軸モーションベース

私たちも知らずに使っていた?モーションシステムの活躍

モーションシステムの活躍の場はアトラクションのようにエンターテインメントを目的にしたものだけではありません。開発中である製品の動作確認や耐久性能を調査する目的で使用環境を再現したり、乗り物の操縦訓練をしたり、揺れを利用した安全な足場として活用されることもあります。主な5つの例をご紹介します。

1.アトラクション

ゲームセンターに設置されるような一人乗りのシートから、テーマパークに設置するような10人程度が同乗できる大型の乗り物まであり、規模も構成もさまざまです。

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2.ドライビングシミュレーター

ドライバーの走行環境を疑似的に再現し、自動車の研究・開発に役立ちます。危険を伴う実験など、実車では実現できなかった検証が可能になり、開発コストの削減・開発期間の短縮につながります。
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3.フライトシミュレーター

乗務員の飛行訓練および定期検定のほか、整備員の訓練などに用いられます。

4.各種試験用

下図のような3軸試験用モーションベースは波の動揺を忠実に再現することに適しており、例としてはジャイロ、衛星アンテナ、船舶搭載カメラの雲台など船舶搭載機器の試験装置として使われています。

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5.洋上施設アクセスギャングウェイ

動揺を制御する特性を生かし、波の揺れを相殺することで船舶から洋上施設などへ人を安全に移動できる架橋付動揺補正装置です。image08

リアルな動きは技術者の腕の見せ所

モーションベースの動きは動作のプロファイルを基にプログラミングしますが、実際の動きを再現したいときは船や車の走行データを取ることもあります。

モーションシステムは、映像で見た通りの広大な空間を移動しているわけではありません。実際にはモーションベースの可動範囲でしか動くことができないため、シリンダーが伸びきったら体験者には分からないようにゆっくり戻すなど、あたかも広大な空間を動きまわっているかのように感じるための工夫がされています。

シミュレーターに乗ることで酔ってしまう人がいますが、実はモーションベースに乗るだけで酔ってしまうことはほとんどなく、映像と動作の「ズレ」が酔いにつながるそうです。技術者たちが試行錯誤して映像とモーションベースの動きを連動させることで、酔わずに違和感の無い乗り心地に仕上げることができます。

アミューズメント向けの場合は一般人を乗せるため、事故などのあらゆる可能性を考慮し、長い時間をかけてテストを繰り返します。ドライビングシミュレーターなどは設置後に時間をかけて調整を行います。基本的に大型システムは設計からシステム稼働まで5年間ほどかけて完成させます。

余談

JRCは米国から導入したデジタル式フライトシミュレーター技術をもとに、国産初であるデジタル電子計算機使用のYS-11Aフライトシミュレーターを1970年に完成させました。この装置には3軸油圧式モーションベースが付いているものもあり、国内の航空会社や教育機関に納入されました。

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YS-11Aフライトシミュレーター

なんと、当時使われていた実機が現在は石川県立航空プラザにて公開展示されており、実際にシミュレーションできるそうです。興味がある方は訪れてみてはいかがでしょうか?

航空プラザご担当者様より
当館の展示にあたっては設備の都合から動揺(モーション)装置を固定して、前面及び両サイドの窓に4つのモニターを設置し、操縦装置を操作すると、モニターが連動しリアルな操縦体験ができるように改修されています。
幅約3.5m 奥行約4m 高さ約4.5m。利用は説明付きで1回500円(2024年11月時点)所要時間は約15分です。

詳しくは公式ホームページをご覧ください。
航空プラザ|小松市まちづくり市民財団

終わりに

JRCではこれからもモーションシステムの可能性を最大限に活用する技術を開発していきます。

 

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