■第1回■通信ことはじめ(その1)
はじめに
これからこのコラムのシリーズで紹介することになる製品技術には、電波の応用技術を使った製品なども多く紹介する予定です。この技術が発見される前の時代ではどのような生活だったのかを知ることでも、進化の過程を知ることができますので、今後の未来を予測する上で参考になることも多くあります。今回はシリーズの初回にあたりますので、電気による通信の発見前にはどのような手段で情報を伝えてきたのか紹介します。
初期の情報伝達方法
私たち人類以外にも、動物は遠くに離れている場所に情報を伝えたいと思う気持ちは昔から持っていて、様々な方法で考えられてきました。
最近の通信の事例では、携帯電話において5G(第5世代移動通信システム)の使用が2020年3月から開始されました。このように少しずつ私たちの通信方法は、より複雑になってゆく多くの情報をより遠くに、より速く、時には多くの人に一斉に伝えたいなどの要求により、様々な情報伝達方法として進化してきました。
今では、有線の電話、インターネット、携帯電話などが一般的な通信の代表的な手段になりましたが、これらは全て電気信号による通信を基本にしています。この電気通信が発見される前の時代ではどのような方法で通信をしていたのか、紹介したいと思います。
- 原始時代:太鼓、狼煙(のろし)、手紙
- 古代エジプト、江戸時代:伝書鳩
- 中世ヨーロッパ:腕木通信(望遠鏡の発明による)
- 日本江戸時代:飛脚による伝達、一部旗振通信
- 1800年代後半・産業革命の時代:電気の発明により電線による、有線の通信が発達
一般的には、私たち人間と一部の動物の場合には、必要な情報は声、身振り手振りで相手に伝えることになります。大昔から離れたところに情報を伝える必要性が生まれてきたのは、敵が攻めてくることが多かったことが大きな理由のひとつです。攻められる側は情報を元にして防備の体制を作ることで効率的な防御ができるので、これまで進化してきたと考えられています。
古代では、情報を伝える最も単純な方法では耳で聞くことができる聴覚による太鼓や鐘による音が利用されてきました。
煙の本数、色を使った狼煙による情報伝達
さらに遠くに伝えるためには、視覚による、情報の伝達手段として、火を焚いて、狼煙(のろし)を遠くから見ることで情報伝達として使われていました。目的はやはり敵の侵入をいち早く伝えて、守備の準備時間を十分にとって迎え撃つ体制を整えることで有利に戦うための連絡にしていた様です。
煙の本数は、1本とは限らず、煙を上げる本数にあらかじめ意味を持たせていたようで、今でいえば少ない伝送量ではありますが、デジタル通信とも言えると思います。本数などの違い以外にも色を変えたりして、情報量を多く伝えることも工夫されていたようです。
但し、夜間、悪天の場合の霧、雨天、強風などの時に使用できないなどと、狼煙を焚き始めるのにも時間がかかるため、確実な伝達にはならなかったこともあったと考えられます。それでも人が伝えるよりは早い方法として伝えることができたので使われていたようです。
狼煙は原始的な方法ですが、人類が遠距離に組織的に通信したといえるのは、この方法から始まった様です。主に国内では山城などに狼煙台跡が多く見られ、遠くからの情報を、早く伝えるような努力があった痕跡として様々な場所で確認できます。
また、文字のある地域で文字が共通で使用されるようになると、直接、人と人の通信以外の方法で遠くに伝える方法として「手紙」が登場しました。誰もが文字を知っていれば紙に文字を書いて相手がその内容を理解することが情報を伝える方法になります。昔は、紙に筆やインクなどで書く以外にも、木なども利用して、他の人に渡して情報を伝えていました。
日本では、江戸時代に飛脚がこれらの手紙や荷物を運んでいたようで、人が歩くと、2週間程度は必要な距離でも、飛脚は江戸から、京都まで、3、4日程度で運び、伝えたようです。
鳩の帰巣本能を利用した伝書鳩
伝書鳩(でんしょばと)による通信も、日本国内と外国でも古くから軍事的な利用例などで、武士がお寺と協力して鳩を飼育していたようです。今でも伝書鳩を使った競技もまだあるようです。しかし、鳩が単純に戻る性質を利用したものなので、情報を伝送するためには、あらかじめ鳩を輸送しておくことが必要になりますので準備が大変だったようです。情報の伝達を往復で行うためには、双方に自分の巣で飼いならして、その鳩をあらかじめ輸送する準備する必要があります。場所が変わるところ(相手)への伝達とか、海上の船には情報は伝達ができませんでした。
さらに、次回は少し近代的な内容で、中世のフランスなどで、望遠鏡などの技術の発達により、腕木通信などの道具を開発して視覚による情報伝達の仕組みが発展してきた歴史などを紹介します。