お役立ちコラム

■第6回■無線通信の発展と日本無線(その2)

■第6回■無線通信の発展と日本無線(その2)

6回では、無線通信の発展とともに歩んできた日本無線の技術を戦後から現在までご紹介。そして、この先の無線通信はどうなるのか?未来の技術について考えてみます。

戦後の無線通信

日本の食料や物資が欠乏し、極度のインフレなど不安定な状況が続く中、当社はGHQによる生産制限のもと、食糧増産につながる漁業用無線機、生活向上に資するラジオ受信機、無線機器、医療機器などの開発・生産に取り組みます。

当社は1947年に超短波FM無線機を完成。1948年から超音波関連の研究を進め、魚群探知機、超音波探傷器、超音波測深器、超音波診断装置などを開発。超音波測深器の第1号機は海上保安庁の富士丸に装備されました。1949年にはマイクロ波多重無線通信の日本初の通信実験に成功します。

1950年の朝鮮戦争を機に景気は回復し、経済復興が進むなか、1952年に日本で初めて船舶レーダーを商品化し、無線装置や航法装置といった船舶用電子機器が広がりました1954年には日本初の気象レーダーを納入します。1957年にはアメリカのレイセオン社、西ドイツのテレフンケン社と技術提携し、製品開発力を高めます。1958年からはテレビ中継放送用サテライト装置を順次納入するほか、音響製品などの新分野を開拓しました。

日本の造船産業は1960年代に大きく発展し、1970年台に入ると石油需要の上昇でタンカーの新造船発注が増大、日本では高度成長が続きます。日本の産業はトランジスタをはじめ最先端のエレクトロニクス技術を積極的に活用し、生産システムの効率化、高度化を実現し、国際競争力を一気に向上させました。当社は無線機やレーダーなどの主力製品にトランジスタやICを積極的に採用して小型・高性能化、高品質化をはかるとともに、テレビ放送機、ファクシミリ、衛星受画装置、多周波切換魚群探知機、放射線測定器、フライトシミュレーター、レーダーシミュレーターなどを相次いで製品化し、新市場を開拓していきました。

また、高度経済成長に伴い公害問題が深刻化したことを受け、1965年から環境監視システムの研究を進め、水質汚染監視システム、大気汚染監視テレメータシステム、環境放射線監視システムなどを開発しました。

1945年 終戦
1949年 Ⓙ日本初の「マイクロ波多重無線通信」に成功
1953年 日本でテレビ放送開始
1954年 Ⓙ日本初の「気象レーダー」を完成
1958年 東京タワーが完成
1959年 日本で船舶電話サービスが本実施
1959年 Ⓙ「テレビ中継放送装置」を完成
1959年 Ⓙ自動選局式カーラジオを完成
1960年 Ⓙ「世界初のトランジスタ化ロラン受信機」を発売
1960年 世界初、アメリカの気象衛星が打ち上げ
1963年 日米間で衛星生中継が開始
1964年 Ⓙ日本初の「同時通訳放送装置」がIMF総会で使用される
1964年 Ⓙ「東京オリンピック大会の音響装置」を納入
1968年 日本でポケットベルサービスが開始
1969年 Ⓙ「空港監視用レーダー(ASR)」を完成
1970年 Ⓙ日本万国博覧会に「会場全域放送装置」を納入
1970年 Ⓙ日本初の「NNSS(衛星航法装置)」と「オメガ受信機」を完成
1972年 Ⓙ世界初の「水質常時監視システム」を完成
1972年 Ⓙ「船舶用衝突予防援助装置(ARPA)」を完成
:日本無線のトピック

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日本初の「気象レーダー」

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世界初の「トランジスタ化ロラン受信機」

 

高度情報化社会から現代

1972年から公衆回線によるデータ通信が可能となり、日本電信電話公社はデータ通信、ファクシミリ通信、画像通信等の対応に取り組み始めました。これにより、いよいよオンライン・ネットワーク時代が到来します。

1970年代に省エネルギー化・低公害化に取り組んだ自動車産業、エレクトロニクスの技術革新により電機産業などが大きく成長しました。当社も技術革新に対応し、無線通信設備の高度化とともに、当時最新であったエレクトロニクス技術を積極的に取り入れた海事衛星通信装置、航法装置、多重無線通信装置、水管理システム、防災行政無線、空港監視レーダーなど次々に新製品を開発しました。

1985年の日本では通信事業が民間事業者に開放される通信自由化が始まりました。自動車電話や携帯電話などの移動体電話と、通信回線を活用する高度情報ネットワークが構築され、当社は企業内INS(高度情報通信システム)モデルシステム実験への参画や、移動体通信システムの研究に積極的に取り組みました。1982年にGPS受信機のプロトタイプを完成し1984年に日本初の船舶用GPS受信機を出荷しました。1990年には世界初のカーナビ向け車載用GPS受信機を完成し、実車に搭載されました。1991年ごろから携帯電話の需要が急増し、大手通信事業者向け携帯電話ムーバRを開発しました。また、PHS端末、携帯電話基地局用アンプ、業務用無線機等も製造・販売しました。

ますます、無線通信の高度化により重要性が増している現在ですが、交通系などのタッチするだけでデータが読み取れるICカードや、スマートフォンは、電波が生活を便利にしてくれている身近な例です。今や通話やインターネットへの接続の他、スマートフォンを通して電子マネーとして使うことが当たり前になっています。このように無線通信技術はコミュニケーションの道具を超え、さまざまな使われ方をして発展しています。電波の利用は今の社会を支えて社会生活を便利にしてくれている根幹の技術となっています。

1973年 第1次石油ショックが起きる
1975年 Ⓙ日本初の「海事衛星船舶通信装置」を完成
1977年 日本で気象衛星による天気予報開始
1977年 Ⓙ「アマチュア無線機」を発売
1979年 日本で自動車電話サービス開始
1983年 Ⓙ世界初の「カラー海象ディスプレイ」「カラースキャニングソナー」を発売
1984年 Ⓙ日本初の「船舶用GPS受信機」を開発
1984年 Ⓙ「セルラー自動車電話用移動機」を発売。アメリカ向けに輸出
1987年 日本で携帯電話サービス開始
1987年 Ⓙ「大容量自動車電話用無線基地局送受信装置」を完成
1989年 日本で衛星放送開始
1990年 Ⓙ世界初の「カーナビ向け車載用GPS受信機」を開発
1991年 Ⓙ「GMDSS用無線通信設備シリーズ」を完成
1992年 Ⓙ「デジタル移動体通信用基地局増幅装置」を完成
1993年 Ⓙ国内携帯電話「ムーバR」を出荷
1995年 日本でPHSサービスが開始
1995年 Ⓙ「PHS1号機」を発売
1996年 日本初のデジタル放送のサービスが開始
2000年 Ⓙ海外市場向け「3G基地局増幅器」出荷開始
2005年 Ⓙグローバル仕様の携帯端末用測定器「マルチシステムUEテスタNJZ-2000シリーズ」を発売

2006年 Ⓙ「二輪車用ETC車載器JRM-11」を発売
2006年 日本でワンセグが開始
2010年 Ⓙ世界初、レーダー狭帯域化を実現した「9GHz300W船舶用固体化レーダー」を開発
2011年 Ⓙ世界初、「S バンド固体化気象レーダー」をフィリピンへ納入

2016年 Ⓙ日本初の「コンパクトLTEシステム」を京都大学へ納入
2019年 アメリカ・韓国でのスマートフォン向け5Gサービスが開始
2020年 新型コロナウイルス感染症の感染拡大。教育・医療・労働でオンラインが活用される
2020年 日本での5Gサービスの提供が開始
:日本無線のトピック

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1977年に発売したアマチュア向け受信機「NRD-505

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世界初の「カラー海象ディスプレイ」

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1993年に出荷した国内携帯電話「ムーバR」

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2006年に発売した「二輪車用ETC車載器JRM-11

無線通信の未来予想図

無線通信技術は急速に進化しており、これからの未来においてもさまざまな進展が期待されています。以下に、無線通信の未来予想を挙げてみましょう。

5Gの普及と6Gの開発: 5G通信は高速で低遅延な通信を提供し、スマートフォンやIoTデバイスの接続を向上させました。今後は5Gの普及が進み、同時に6Gの開発も進められるでしょう。6Gは、より高速なデータ転送速度、低遅延、高い信頼性を提供すること、さらには「空・海・宇宙への通信エリア拡大」、「超低消費電力・低コストの通信実現」などが期待されています。

ネットワークの拡張とIoTの発展: さらに多くのデバイスがインターネットに接続されることで、IoTInternet of Things)が急速に発展しています。将来では、これらのデバイスがさらに多様な環境で活用され、農業、医療、都市計画などの分野で効果的に活用されると予想されています。

光通信の進化: 光ファイバーを使った通信技術も進化し続けており、より高速なデータ転送が可能になると予想されています。光通信技術の発展により、広域の通信網が強化され、より多くの人々が高速なインターネット接続を享受できるようになるでしょう。

スペクトラムの効率的な利用: 通信の需要が増えるにつれて、電波スペクトラム※1の効率的な利用が重要となっています。AIを活用したスペクトラムの動的な割り当てや、ビームフォーミング※2の進化により、通信の安定性と速度が向上すると予想されています。

セキュリティとプライバシーの強化: 通信技術の進化に伴い、セキュリティとプライバシーの脅威も増加しています。将来に向けて、より強力な暗号化技術や認証手法が開発され、ユーザーのデータがより安全に保護されるでしょう。

無線給電の進化: 遠隔地でデバイスを充電する技術も進化しています。将来的には、無線給電技術の発展により、電池寿命の延長や、電力供給の新たな方法が実現される可能性があります。

これらはあくまで予想であり、技術の進化は予測困難な側面も持っています。しかしながら、無線通信技術がますます私たちの日常生活や産業に影響を与えることは間違いありません。

これらの新たな技術によって無線通信は、車の完全自動運転、自動運航船、ドローンによる配達・給仕・監視・メンテナンスなど、人手不足で疲弊・衰退している業界の維持と効率化、そして成長を支える技術のインフラとして発展していくでしょう。また、年々問題視されている環境汚染や気候変動においても、エネルギーの生産・使用の効率化をはじめとする対策に活路を見出すことが期待されます。災害時やその対策においても、レーダーやセンサー、カメラによる監視や「〇〇の見える化」により、いつでもどこでも正確で高品質な情報を収集・共有できる通信環境を作り上げ、迅速な状況把握、周知をすることで、防災・減災・逃げ遅れゼロに貢献するでしょう。私たちの日常生活で欠かせないコミュニケーションツールとしてもますます発展し、まるでその場に通話先の相手がいるかのような五感を使った会話ができるようになり、滞在場所に関わらず誰でも同等のサービスを受けることが可能になったり、遠く離れた人とのつながりを深める手助けになったりするかもしれません。分野・業界などあらゆる境界に関わらず、技術や情報がつながることで新たな道が開けてくることでしょう。そのためには、高度なセキュリティと、技術を正しく快適に使用するための法整備も欠かせないでしょう。

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ブリッジシステムの過去と現在と未来

「通信ことはじめ」から始まった「無線通信のおはなし」も、この6回めでおしまいとなります。進化し続ける技術は、私たちの生活のはるか向こうで走り続けています。今後も、新しい技術や製品、ソリューションの研究や開発が世の中に登場した際には、この「お役立ちコラム」で情報発信を行っていきます。


※1 スペクトラム
電波スペクトラム(電磁波スペクトラム)とは、電磁波が異なる周波数や波長を持つ帯域で分布していることを示すものです。電波の周波数範囲は、通信技術や無線通信システム、ラジオ、テレビ、モバイル通信、無線LAN、衛星通信などの用途に合わせて割り当てられています。多くの異なる通信サービスが同時に運用できるよう、無線通信システムが異なる帯域で動作するために、お互いに干渉の影響を受けないように規制されています。

※2 ビームフォーミング
ビームフォーミング(beamforming)とは、無線通信や音響信号処理などの分野で使用される信号処理技術の一つで、指定した方向に信号を集中させるために利用されます。信号送信または受信アンテナアレイの配置と位相制御を用いて、特定の方向に信号のビーム(束)を形成することができます。

 

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