No.21
電波のはなし その6~周波数ごとの電波の主な用途~
電波は、その利用目的に応じて周波数が割り当てられています。今回は、割り当てられた周波数ごとの電波の主な用途について紹介します。
限りある電波をみんなで利用するために
私たちが使える電波の周波数には限りがあります。そのため、世界中で公平に電波を利用できるように、国際電気通信連合(ITU)は世界を「第一地域」「第二地域」「第三地域」の3つに分けたうえで、各々の地域で周波数帯ごとに電波の用途を定めています。日本は第三地域に属しています。なお、どの国にも属さない南極では、各国が設置した観測基地や調査機関とITUとの国際的な調整にもとづいて周波数が割り当てられています。

ITUが定めている電波利用上の地域区分
日本国内で割り当てられている電波の周波数とその主な用途
日本国内では、電波を公平かつ能率的に利用できるように総務省が周波数を割り当て、管理しています。割り当てられる周波数には電波のはなし その3~周波数で変わる電波の特徴~で説明した「電波の特徴」が大きく関係しています。周波数が異なれば電波の特徴も異なるためです。「電波」として利用されている周波数は3kHzから3THz(3000GHz)までの範囲で、次の図のように大きく9つに分類されています。

周波数の割り当て
(参考: 総務省 通信白書令和7年版 図表Ⅱ-1-4-1)
※周波数の割り当ては逐次見直されています。最新の情報は総務省 我が国の電波の使用状況をご覧ください。また周波数ごとの電波の用途は総務省 周波数割当計画の検索で調べることができます。
ここからは、9つに分類された周波数の電波の各々の特徴や用途などについて紹介します。
超長波(VLF:Very Low Frequency)
周波数:3kHz~30kHz 波長:10~100km
低い山などで妨げられることがほとんどなく、また水中でも伝わる電波です。この電波は波長がとても長く、非常に大きなアンテナが必要になるのですが、この電波の波長に見合う超大型のアンテナを建てることが現実的には難しく、アンテナの性能を補うために大きな電力が必要になります。このため、大規模な設備を用意しなければなりません。
無線通信の黎明期には、国際通信に超長波の電波が重宝されました。日本では、1929年に依佐美送信所(愛知県刈谷市)から17.442kHzの電波を使用して国内初となる欧州との国際無線通信を行いました。このときに使われた装置は、ドイツ・テレフンケン社製の大電力型(700kVA)の高周波発電機で、8基のアンテナ鉄塔は高さが250mもありました。日本無線はテレフンケン社と共同で、このアンテナ鉄塔を含めた無線電信局の建設工事を請け負いました。

欧州向け無線電信局依佐美送信所に建設された高さ250mの鉄塔と空中線
(1929年建設、1997年解体)
超長波は、現在では潜水艦との通信や地中探査など(高い周波数の電波が減衰しやすい環境)で利用されています。
長波(LF:Low Frequency)
周波数:30kHz~300kHz 波長:1~10km
従来は長距離通信に利用されていましたが、波長が長く、アンテナなどの設備が大きくなるため、波長の短い短波にその役目が引き継がれていきました。長波は現在、電波時計を自動的に正しく合わせる「標準電波」などに利用されています。
電波時計は、標準電波を定期的に受信し、時刻を正確に合わせています。日本の標準電波は福島県(おおたかどや山標準電波送信所)と佐賀県(はがね山標準電波送信所)の2箇所からそれぞれ40kHzと60kHzの電波で発射され、日本全国をカバーしています。私たちが使っている電波時計は、このどちらかの電波を自動的に受信し、時刻を正確に合わせているのです。

日本の標準電波送信所
中波(MF:Medium Frequency)
周波数:300kHz~3MHz 波長:100~1000m
送信所から100km程度離れた地域まで安定して伝わり、途中に山などの障害物があっても影響を受けにくいことからAMラジオ放送などで使われる電波です。この他に船舶の中距離無線通信にも使われます。また、夜間は地表から約100kmの高さにある「電離層」で反射して遠くまで伝わります。
AMラジオ受信機の回路構成はとても単純で、その中でも「鉱石ラジオ」は電源がなくても放送が受信できます。しかし放送局側の送信設備は大きく、設備維持にコストがかかるというデメリットもあります。このため、民放AMラジオ放送の多くが2028年までにFM放送へ置き換わる予定です。
中波を利用する日本無線の製品:中波ビーコン送信機、中波ラジオ放送機、ナブテックス受信機
短波(HF:High Frequency)
周波数:3~30MHz 波長:10~100m
地表から約200~400kmの高さにある電離層で反射する性質があり、電離層と地面との間で反射を繰り返すことで地球の裏側までも伝わります。このため、短波はかつて国際通信の手段として活用されていました。
日本初の国際電話は短波を利用し、1934年にフィリピンのマニラとの間でサービスが始まりました。国際通信の主な手段がインターネットや衛星通信と置き換わった現在、短波は船舶通信やアマチュア無線などの限られた用途で利用されています。しかし、インターネットや衛星通信網(人工的な通信ネットワーク)が使えなくなった場合などの非常時の通信手段や自国の情報を得る手段として、短波の重要性を見直す動きもあります。
短波を利用する日本無線の製品:船舶用MF/HF無線装置、対空用HF 無線電話受信装置 など
超短波(VHF:Very High Frequency)
周波数:30MHz~300MHz 波長:1~10m
直進する性質が強く、基本的には見通しが利く範囲内に伝わる電波ですが、山や建物の陰にもある程度回り込んで伝わる性質をもち、見通しがきかない場所にまで伝わることもあります。超短波は、近距離向けのFMラジオ放送や防災無線などのほかに、アンテナを小さくできるメリットを生かして移動通信にも幅広く利用されています。
かつてのアナログテレビ放送(90~108 MHz、170~222MHz)にも使われていましたが、2011年の地上デジタルテレビ放送への移行時に極超短波(470~710MHz)へ置き換わりました(一部の被災地を除く)。

超短波を利用する日本無線の製品:国交省向け無線機、市町村デジタル同報無線システム(戸別受信機を含む)、自動船舶識別装置(AIS) など
極超短波(UHF:Ultra High Frequency)
周波数:300MHz~3GHz(3000MHz) 波長:10cm~1m
超短波(VHF)と比べて直進する性質がさらに強い電波で、見通しがきく範囲内の通信や監視などに利用されています。代表的な利用例として、地上デジタルテレビ放送、レーダー、スマートフォン、無線LANなどが挙げられます。皆さんの生活にもっとも密接な電波と言っても良いのではないでしょうか。また波長が短くなり、アンテナをさらに小さくできるため、移動通信にも積極的に使われています。

極超短波を利用する日本無線の製品:業務用無線機、インマルサット、携帯電話、PHS、テレビ中継放送機 など
マイクロ波(SHF:Super High Frequency)
周波数:3~30 GHz 波長:1~10cm
直進性(まっすぐに進む性質)が非常に強い電波で、このためアンテナを工夫することで特定の方向へ電波のエネルギーを集中させやすくなります。この性質を生かして気象レーダーや船舶用レーダーに利用されています。またデジタル通信では伝送できる情報量が大きいため、無線LANやローカル5Gなどに利用されています。
マイクロ波は帯域が広く、周波数によって細分化されていて、それぞれ「Sバンド」「Cバンド」「Xバンド」「Kuバンド」「Kバンド」「Kaバンド」と呼ばれています。たとえば気象レーダーはCバンド(4~8GHz)とXバンド(8~12GHz)を利用しており、周波数の低いCバンドは広域の降雨の監視に有効で、周波数の高いXバンドは観測範囲が狭い一方、観測時間が短縮でき、また観測結果の分解能が高いことから、ゲリラ豪雨などの監視に有効です。

マイクロ波の周波数区分

船舶用レーダーのSバンド固体化空中線
(船舶用レーダー装置 JMR-9200/7200 シリーズ)
マイクロ波を利用する日本無線の製品: ETC車載器、地上波デジタル放送用STL装置、空港気象ドップラーレーダー
ミリ波(EHF:Extra High Frequency)
周波数:30~300 GHz 波長:1~10mm
マイクロ波よりもさらに直進性が強く、また大きな情報を短時間で伝送できる電波です。その一方で、波長が非常に短いため雨や霧の影響を受けやすく、大気中では遠くへ伝わりにくいため、近距離間の画像伝送や自動車の衝突防止センサなどに利用されています。
76GHz帯(76~77GHz)の電波を利用するレーダーは、1996年以降に欧米で標準化され、車載レーダーとして世界中で活躍しています。このレーダーは日本でも1997年に制度化され、先行車追従機能や衝突防止機能として活用されています。また歩行者や自転車の安全を確保するため、より高い距離分解能(同じ方向にあってわずかに離れて存在する2つの物体をそれぞれ別の物体として識別できる能力)をもつ79GHz帯の電波が注目されています。
このほかに、ミリ波は電波望遠鏡としても活用されています。これは、一般の光学望遠鏡では観測できない「宇宙に漂う低温のガスや塵(星の材料)」をミリ波によって捉えることができるためです。ミリ波はほかにも多くの利用価値が見込まれており、研究や技術開発が進められています。

サブミリ波
周波数: 300 GHz~3THz(3000GHz) 波長:0.1mm~1mm
光に近い性質を持つ電波です。電波望遠鏡による天文観測に利用されていますが、大気中の水蒸気によって吸収されやすいため、サブミリ波を使った観測は空気が乾燥した高地で行われています。
サブミリ波は波長が非常に短く、実用化に向けた技術的なハードルが高いため、現時点では利活用があまり進んでいませんが、電波天文学や高度な通信・計測などに応用するための研究や技術開発が進められています。
おわりに
私たちの生活の中で「電波に頼る機会」は時代とともに増えています。その一方で、電波(周波数)には限りがあります。このため、時代の変化に合わせて電波の効率的な利用方法が検討されてきました。
現在、私たちの身近で活用されている電波の周波数は80GHz程度までの範囲ですが、自動化や高度情報化が進む中、さらに高い周波数の電波を有効に活用する必要があります。私たち日本無線も「電波の有効活用」に向けて鋭意取り組んでいます。