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当社製Xバンド気象レーダーが南極・昭和基地にて運用を開始
ー 世界初の固体素子型Xバンド二重偏波気象レーダーによる南極観測 ー

研究情報

日本無線株式会社(本社:東京都中野区、代表取締役社長:小洗 健、以下JRC)は、南極地域観測事業の第Ⅹ期6か年計画における重点研究観測(AJ1005)「南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上」(研究代表者:国立極地研究所 教授 猪上 淳)において、国立極地研究所、気象庁およびJRC の共同研究「気象レーダーを用いた極域における固体降水の定量的解析手法の開発」の一環として、昭和基地にてJRC製固体素子型Xバンド二重偏波気象レーダー「RAINWATCHER(レインウォッチャー)」の本格運用が開始されたことをお知らせします。

image01南極・昭和基地に設置されたRAINWATCHER
(写真提供:第66次南極地域観測隊)

南極での固体素子型Xバンド二重偏波気象レーダーによる観測の試みは世界初であり、地球規模の気候変動をはじめとする環境変化の監視強化が求められる中、これまで観測の難しかった降雪量(降水量)やブリザード等の詳細な気象情報を、独自技術による高精度観測で実現します。

背景

南極の氷床には、陸上の氷のおよそ90%が蓄えられています。この氷床の大きさは、氷床上への降雪量(降水量)と蓄積された氷が海へ流れ出す量とのバランスによって決まります。南極氷床の増減は、気候や世界の海面水位にも大きな影響を及ぼすため、その将来を予測するには降水量を正確に把握することが非常に重要です。

しかし、南極地域では強風や地ふぶきなど厳しい自然環境のため、従来型の雨量計では正確な降水観測が困難という課題がありました。こうした状況の中で、高精度な降水量の把握へのニーズの高まりと、近年のレーダー技術の進歩を受けて、今回、国立極地研究所・気象庁・JRCにて産学官の共同研究契約を結び、昭和基地への本格的な気象レーダーによる観測が実現しました。

製品特長

・半導体素子による送信機採用で定期交換部品不要の「メンテナンスフリー」を実現
・高精度な降水量推定や降水粒子種別の判別を可能にする二重偏波機能を装備
・Xバンド(9GHz帯)により観測範囲は80km
・小型・軽量により船舶輸送・現地設置も容易

寒冷地への対応

また、昭和基地周辺は南極の中では比較的温暖ですが、厳冬期には気温が-40℃まで下がることがあります。ブリザードでは最大瞬間風速が50 m/sに達し、気温が0℃付近まで上昇するなど急激な温度の変化があります。このような過酷な環境下でも安定して気象監視ができるように、本レーダーは寒冷地仕様としています。具体的には、レドーム内部に小型ヒーターを設置し、さらに内壁に断熱用発泡ウレタン材を塗布することで、レドーム内部の温度を5℃以上に維持できるよう工夫しています。

image03寒冷地仕様の断熱性能評価試験の様子

 

 設置・運用までの流れ

機材は日本から約14,000kmを南極観測船「しらせ」で輸送。専門技術者や建築隊員のみならず多分野の観測隊員の協力のもと、現地での基礎工事・組立・据付作業を実施し、2025年1月23日に設置完了。1月31日には無線局免許が交付され、2月1日より正式運用となりました。

image02南極観測船「しらせ」に積み込まれるRAINWATCHER
(写真提供:第66次南極地域観測隊)

 

今後の展望

観測は2028年まで行われ、国立極地研究所および気象庁にてデータ取得・解析が実施されます。ブリザードを含む厳しい気象条件下でも、降水や風の分布を1分単位で克明に捉えられることは既に実証されており、今後3年間の継続運用を通じて降水量推定アルゴリズムの高度化を目指し、その成果による気象予測研究への貢献が期待されます。また、本導入の知見を国内外の厳しい気象観測現場へも展開し、持続可能な社会と防災・減災分野の発展に寄与してまいります。

※第Ⅹ期6か年計画
「第Ⅹ期」はローマ数字で「10期目」という意味であり、日本がこれまで行ってきた南極観測計画の10番目の期間にあたります。各計画はおおむね6年間を一区切りとし、それぞれの期で重点テーマや観測計画が設定されています。

関連情報

・国立極地研究所 公式ウェブサイト
  第66次南極地域観測概要
  第65次・第66次南極地域観測隊の活動成果

Xバンド小型気象レーダ RAINWATCHER 製品情報ページ

お問い合わせ先

報道機関
日本無線株式会社
事業推進部 マーケティング・広報グループ
Tel:03-6832-0721

注)内容はリリース時現在のものです