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衛星×5Gネットワークにおける
柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験に成功
~宇宙と地上を結ぶ柔軟なネットワークで、つながる社会を目指す~
研究情報日本無線株式会社
スカパーJSAT株式会社
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
国立研究開発法人情報通信研究機構
日本無線株式会社(本社:東京都中野区、代表取締役社長:小洗 健、以下 JRC)は、スカパーJSAT株式会社(代表取締役 執行役員社長:米倉 英一、以下 スカパーJSAT)、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤 泰浩、中尾研究室教授:中尾 彰宏、以下 東京大学)及び国立研究開発法人情報通信研究機構(理事長:徳田 英幸、以下 NICT(エヌアイシーティー)と共に、静止軌道(GEO)衛星回線、低軌道(LEO)衛星回線、地上回線を含む5Gネットワークにおける動的なバックホール経路※1の切り替えやQoS(Quality of Service)制御※2の実証実験に成功しました。これにより、多様なサービスや回線状況にも柔軟に対応可能な、信頼性の高い衛星回線×5Gネットワークの構築が期待されます。
本実験は、NICTが実施する委託研究『Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発(採択番号 21901)』の一環として実施されました。
ポイント
- 多様な状況に適応するための衛星×5Gを活用した経路切り替え、動的QoS制御の実証実験に成功
- 災害時を想定した実証実験を実施
- 衛星×5Gネットワークの信頼性と通信における柔軟性の向上に貢献
背景
Beyond 5Gでは、拡張性・広域性という観点から「非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」が注目されています。NTNとは、衛星、高高度プラットフォーム(HAPS:High-Altitude Platform Station)、ドローンなど多層的で様々な通信インフラを介して宇宙、空、海などを含めた異なる空間を相互につなぐネットワークです。NTNを構成する各通信インフラは、遅延や安定性においてそれぞれ異なる通信特性を持っており、用途に応じた柔軟な通信路の実現が期待されます。
また、3GPP(3rd Generation Partnership Project)※3においても5GにおけるNTN接続のサポートに関する標準化が進められており、これらの動向を踏まえ、衛星回線×5Gネットワークの商用化に向けた取り組みが国内外で活発になっています。そこで、NICTは欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)との趣意合意書(LoI:Letter of Intent)を締結し、本分野における日欧の連携を強化し、NTN技術のグローバルな視点での技術開発及び通信インフラの実現に向けた取り組みを推進しています。
このような背景から、JRC、スカパーJSAT、東京大学及びNICTは、多岐にわたる通信需要や回線状況に合わせ柔軟に対応できるネットワークを構築するため、GEO衛星回線、LEO衛星回線、地上回線といった複数種類の経路を含むシステムにおいて、トラフィックに応じた適切なバックホール経路の動的な切り替えや動的なQoS制御を行う実証実験を計画してきました。
衛星-地上統合技術研究開発の実証実験
各機関が協力し、GEO衛星・LEO衛星・地上設備(ローカル5Gシステム)を相互に接続したネットワークの構築及び実証実験を行いました。本実証実験では、回線監視や経路切り替え、用途に応じたバックホール経路の割り当て、バックホール回線の帯域幅に応じた動的なQoS制御など、次世代通信技術の検証を実施しました。また、衛星回線と5Gを組み合わせ、多様な用途や回線状況に合わせて柔軟に対応できるネットワーク基盤の実現性を確認するため、災害時を想定した実証実験も行いました(図1)。これらすべての実証実験に成功し、エンドユーザにおける通信の有効性を示しました。本成果により、将来的な社会インフラの信頼性向上と、様々な通信ニーズに応える持続可能なネットワークの実現に大きく貢献できることを確認しています。
図1:GEO衛星、LEO衛星、ローカル5Gシステムを相互接続したネットワーク構成
実証実験における各機関の役割と成果
JRC | ・災害時をユースケースとした実証実験の企画、推進 ・ローカル5G×衛星連携にて高機能映像伝送・ロボット遠隔操作等実証 ・衛星回線用地球局の準備、構築、運用 |
スカパーJSAT | ・東経162度の静止衛星Superbird-B3によるKuバンド衛星回線の提供 ・「QoS制御」および「経路制御」を組み合わせた環境の構築 ・回線状況に応じた動的なトラフィック制御手法の確立、検証実施 |
東京大学 | ・ローカル5Gソフトウェア基地局の構築 ・日欧共同実験のテストベッドの構築 ・ネットワークスライスの動的QoS制御手法の確立、実証 |
NICT | ・ESAとの日欧連携の枠組みの設定 ・実証実験環境の構築サポート(5G基地局及び5Gコア※4ソフトウェア整備) ・本実験に関する技術的サポート |
JRC
JRCは、発災時の通信ネットワークをユースケースとし、災害状況の把握から、現場監視、人命救助、支援物資の運搬、ライフラインインフラ設備の復旧復興まで、長期的に優先度の高い通信環境を構築することに取り組みました。具体的には、GEO衛星回線、LEO衛星回線、地上回線をバックホールとした、マルチバックホールスイッチングの実証、及び、災害時をユースケースとし、GEO衛星回線と、LEO衛星回線のそれぞれをバックホールとしたローカル5G-衛星の実証実験を実施しました。人間が立ち入れない危険な場所での情報収集を想定し、360度カメラを搭載したロボットをローカル5G環境に置き、衛星回線を経由してロボットの操作と高機能映像の伝送を行いました。ジッタの少ないGEO衛星と遅延の少ないLEO衛星、それぞれの特長を活かすため、GEO衛星回線では360度カメラや監視カメラからの映像伝送を行い、LEO衛星回線では、災害用ロボットの遠隔操作を成功させました。この実証実験により、災害下での情報収集ニーズに対し、使用したいアプリケーションから最適な軌道の衛星回線を選択することで、優れたソリューションを提供できることを実証しました。また、スライシング※5のQoS制御を活用することにより、災害時の限られた通信帯域を有効利用できることも示しました。
なお、LEO衛星回線は、ソフトバンク株式会社が提供する「Eutelsat OneWeb」またはKDDI株式会社が提供する「Starlink」を利用しました。また、ロボット制御と360度カメラ映像伝送は、株式会社ポケット・クエリーズによるシステムを利用しました。
スカパーJSAT
スカパーJSATは、ローカル5Gのバックホールとしてそれぞれ特性の異なる複数軌道の衛星通信の活用を目的として、「QoS制御」及び「経路制御」を組み合わせた環境の構築を行いました。
構築した環境では、回線状況に応じた動的な制御の有効性を実証しました。具体的には、アプリケーションの用途に応じて最適なバックホール経路を割り当てるとともに、災害や障害などで一部のバックホール回線が使用できなくなった場合には、自動的に衛星回線へ切り替える仕組みを導入し、通信の継続性と安定性を確保しました。回線の切り替えに伴い、一部の回線にトラフィックが集中せざるを得ない状況においても、QoS制御により各アプリケーションに対して適切な帯域の割り当てを動的に調整する仕組みを適用しました。LEO衛星による通信容量の増大とGEO衛星利用時の安定した帯域確保を組み合わせることで、スループット※6の向上と通信の安定性の両立が可能であることが確認されました。
これらの成果から、GEO及びLEOといった複数軌道衛星と5G通信を連携させた通信システムは、地上インフラが整っていない地域や災害時などの特殊な環境においても、高速かつ安定した通信の提供が可能であると実証されました。
東京大学
東京大学はBeyond 5Gにおける衛星-地上統合技術研究開発の実証実験において、衛星地上統合システム上でエンドツーエンド※7のネットワークスライシング技術を実現しました。さらにネットワークスライスの動的QoS制御手法を確立し、東京大学が開発しているローカル5Gシステムや実衛星システムを利用し、上記にて確立した手法の実証を行いました。
遠隔による災害監視等では、複数台の高品質なカメラを同時に利用することが求められますが、現在の衛星地上統合システムは通信帯域に限界があり、すべてを同時に高品質で配信することは難しいという問題があります。一方で、常に高品質な映像が要求されるわけではなく、時間や場所によって要求されるカメラやその品質は変化します。
そこで、監視者のニーズに応じて、カメラのQoSを動的に制御させる動的QoS制御手法を研究開発しました。この手法には、各カメラによる映像配信アプリケーションを5Gが提供するネットワークスライシングを利用して個別にQoSを確保・制御する手法を採用しました。具体的には、高品質な伝送を必要としないアプリケーションについては、GBR(Guaranteed Bit Rate)を利用して一時的に帯域を制限します。これにより、品質を高める必要があるアプリケーションが利用できる帯域を相対的に確保することで、QoSの向上を図っています。さらに遠隔監視というニーズに応えるため、動的QoS制御を遠隔地からリモートで操作可能なコントローラの開発も実施しました。
また、今後の利活用推進に向けてSDN/NFV※8技術を利用したトラフィック分類、優先制御、遅延対策機能などの研究開発も独自に実施しており、ローカル5Gシステムの堅牢化やネットワークスライシングの自動化につながる技術も開発しました。
NICT
NICTは、Beyond 5G時代における衛星地上統合技術の研究開発を加速させるため、委託研究の枠組みを整備し、ESAとの連携を通じて国際的な協力体制を確立しました。これにより、国内外の企業・大学・研究機関が連携して研究開発を行える基盤を整え、グローバルな視点から技術開発及び通信インフラを相互接続する連携技術の実現に向けた取り組みを推進しています。
また、本実証実験では、NICTがこれまで培ってきた衛星回線、5G基地局、5Gコアなどを含む通信システム全体のネットワーク構築に関する知見を活かした技術的な支援及び委託研究としての支援を行いました。特に技術的な支援として、実験環境の信頼性向上を目的に、ノウハウを活かして5G基地局の接続安定性確保のための通信パラメータ設定や5Gコアのシステム構築などを行い、本実証実験の成功に大きく貢献しました。
今後の展望
JRC、スカパーJSAT、並びに東京大学は、本研究開発成果を基に、防災機関等での利活用を目指し取り組みを継続します。また、5G NTNへの展開を視野に技術実証環境を整備し、将来のユースケースにも対応した実証実験を推進します。さらに、多様なサービスや回線状況にあわせて柔軟に対応可能な衛星地上統合システムを支えるローカル5Gシステムについては、産学連携により商用展開を目指します。本検証で取り組んだ要素技術については、今後も研究及びフィールド実証を重ね、宇宙と地上を結ぶ柔軟なネットワークで、いつでもどこでもつながる社会の実現に向けて継続的に取り組んでいきます。
NICTは、これまでに築いてきた国内外の企業・大学・研究機関との連携をさらに深化させ、Beyond 5G時代における衛星地上統合技術やNTN技術の研究開発・実装をグローバルな視点で推進し、地上から海・空・宇宙までを多層的につなぐ三次元ネットワークの実現を目指していきます。
各社共通のプレスリリースはこちら(PDF 652KB)をご参照ください。
※1 バックホール経路
無線基地局とネットワークの中心部を結ぶ通信経路。
※2 QoS(Quality of Service)制御
通信の優先順位や帯域幅などを調整する仕組み。
※3 3GPP(3rd Generation Partnership Project)
携帯電話網の仕様の検討及び作成を行う標準化団体間のプロジェクト。
※4 5Gコア (5Gコアネットワーク)
5Gにおいて接続処理やルーティング処理を担う部分。
※5 スライシング
一つのネットワークを複数の仮想的なネットワークに分割し、それぞれのネットワークを異なるサービスやニーズに合わせて最適化する通信技術。
※6 スループット
実際のネットワーク環境で達成されるデータ転送量。
※7 エンドツーエンド
ネットワーク通信における端から端まで。
※8 SDN/NFV
ネットワークをソフトウェアで柔軟に制御・仮想化する技術。
関連情報
ニュースリリース(2022年6月8日)
国際間長距離5Gネットワークにおいて衛星回線を統合する日欧共同実験に成功
~宇宙と地上がシームレスにつながる社会の実現に貢献~
国内初、静止衛星とローカル5Gとの接続による映像伝送実験に成功
お問い合わせ先
報道機関日本無線株式会社
マーケティング・広報グループ
Tel:03-6832-0721
注)内容はリリース時現在のものです