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日本初!自営通信網による長距離目視外飛行を実現

作成者: 日本無線株式会社|2025.11.14

日本無線株式会社(本社:東京都中野区、代表取締役社長:小洗 健、以下 JRC)は、長野県大町市高瀬ダム奥の東沢ヘリポートから湯俣山荘までの渓谷沿いで、無人航空機(ドローン)による物資輸送の実証実験を実施しました。本実証実験では、JRCで独自開発している飛行航路シミュレーションソフトウェア(以下、飛行航路検証ソフト)を用い、障害物との距離、飛行高度、電波の見通しなど重要な飛行条件を、事前に机上検証しました。事前検証により最適化した自動飛行航路と自営通信網にて無人航空機の目視外飛行を行った結果、計画通りの安全運航を達成。JRCの飛行航路検証ソフトの高い有効性を確認しました。

なお、本実証実験は、長野県の補助事業「令和7年度次世代空モビリティ活用信州モデル創出補助金」として採択された「公衆通信網未整備の山岳地域における安全な自動飛行航路の構築と物資輸送実証」事業の一環として行われたものです。

飛行航路設定のポイント

  • 飛行航路と尾根などの障害物との位置関係を視覚的に確認できる
  • 飛行高度や障害物との距離を数値データで確認できる
  • 無線中継局と飛行航路上の無人航空機との見通しを視覚的に確認できる

飛行航路設定・電波の見通し検証のイメージ

飛行航路検証ソフトの画面

本実証実験の概要と成果

長野県大町市の高瀬ダム奥に位置する東沢ヘリポートから湯俣山荘までの渓谷沿いで、無人航空機による物資輸送の可能性を検証しました。

通常、無人航空機は、操縦者が操作する遠隔操作機(プロポ 正式名称:プロポーショナル・コントローラー)との直接通信やLTE等の公衆移動通信網を利用して機体制御テレメトリー通信を送受信することにより飛行の制御ができます。
しかし、本実証エリアは、人が立ち入ることの少ない山岳地域のため公衆移動通信網が未整備(サービスエリア外)となっています。このような環境下で、山小屋への物資輸送などの長距離飛行を実現するには、飛行航路全体をカバーする独自の通信網の構築が不可欠です。

JRCは、自営通信網の構築にあたり、独自開発している飛行航路検証ソフトを用い、以下の重要な飛行条件を事前に机上検証しました。
  1. 地形の起伏や尾根線などの障害物との距離の確保
  2. 航空法などの関係法令※1で規制されている飛行の禁止空域とならない飛行高度の遵守
  3. 構築する自営通信網の無線局と無人航空機間の電波の見通し及び通信距離の確保
なお、本実証実験で活用した飛行航路検証ソフトに関連する技術については、現在特許出願中です。

飛行実証では、自営通信網構築のため事前検証により最適な自動飛行航路と無線中継局の位置を決定し、補助者を配置した目視外飛行(カテゴリーⅡA飛行)を実施しました。その結果、東沢ヘリポートから湯俣山荘までの片道約6kmの区間において、計画通り安全に無人航空機を飛行させることができました。

本実証実験で取得した実測データから障害物との距離、飛行高度、機体制御テレメトリー通信の安定性を検証した結果、飛行航路検証ソフトの高い有効性が確認され、今後、他の山岳地域で無人航空機を飛行させる際の技術展開にも期待できます。

なお、一般公衆移動通信網が未整備の山岳地域で、自営通信網を構築して約6kmに渡る無人航空機の目視外飛行を実現したのは国内初(当社調べ)の事例です。本実証実験は山岳地域における物資輸送の可能性を広げる大きな成果であり、今後の事業化や無人航空機をはじめとする次世代空モビリティの社会実装加速に向けた重要な一歩となりました。

自営通信網構築に使用した機材

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT エヌアイシーティー)開発のコマンドホッパー※2など、複数の通信機を使用して自営通信網を構築しました。

自営通信網に使用したコマンドホッパー

湯俣山荘に果物を輸送

本実証試験では、着陸地点の湯俣山荘に物資輸送を実施しました。輸送物資として新鮮な果物(りんご、ぶどう等)を選定し、山小屋への食料品の安定供給の手段として無人航空機の有効性を実証することができました。

物資輸送の様子

地図出典元:国土地理院ウェブサイト(地理院地図を加工して作成)

今後の展望

山岳地域での長距離目視外飛行という過酷な環境での実験ノウハウを活かし、物流など様々な場面で無人航空機が安全に飛行できる技術を創造し、次世代空モビリティの社会実装加速に貢献することを目指してまいります。

JRCは、日清紡グループの一員としてモビリティ社会の実現に貢献してまいります。

プレスリリースはこちら(PDF 900KB)をご参照ください。

※1 航空法などの関係法令
航空法第132条の85第1項1号、航空法施行規則第236条の71第1項。

※2 コマンドホッパー
920MHz帯と169MHz帯の2つの周波数を組み合わせた通信システム。169MHz帯では低速ですが障害物がない条件で10km以上の距離で通信可能で、920MHz帯では1km程度以下の近距離ですが169MHz帯よりは高速な通信が可能です。また、時間分割による多重化を採用し、最大3ホップまでの遅延補償中継通信が可能で、適切な位置(ドローン上あるいは地上、建物上等)に中継局を配置することにより山や建物などの障害物を越えて、ドローンと地上局の間のテレメトリ・コマンド回線をつなぐことができます。このシステムは通信距離と通信速度をトレードオフの関係にしており、ドローンのミッションが要求する条件に合わせて設定することができます。(NICT 提供情報)

関連情報

ニュースリリース(2023年3月9日)
山岳地域で物資を輸送する無人航空機の開発に向けた通信実証に成功
~公衆網や衛星測位基準局が少ない山岳地域において、自営網による安全な飛行に資する通信・センシングを実現~

NICT公式ウェブサイト
無人航空機関連の通信技術(コマンドホッパー解説ページ)


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報道機関
日本無線株式会社
マーケティング・広報グループ
Tel:03-6832-0721

注)内容はリリース時現在のものです