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電波のはなし その4~電波の伝わり方(電波伝搬)~

作成者: 日本無線株式会社|2025.07.04

前回の記事「電波のはなし その3~周波数で変わる電波の特徴~」では、電波の特徴のひとつとして、周波数が変わると障害物の影響を受けやすくなる、などについて説明しました。今回は「電波の伝わり方」に焦点を当てて説明します。 

電波の伝わり方はさまざま

電波は、周波数や伝わる経路(伝搬経路)によって次のような伝わり方をします。それぞれ、下段にて一つずつ説明します。

1.見通しのきく地点間を「直進」する

電波は障害物のないところ(見通しがきくところ)では直進します。
前回の記事でも説明したとおり、この性質は周波数が高いほど強くなります。
このため、高い周波数の電波は、障害物がない区間の通信に使われることがほとんどです。


障害物のないところでは直進する

なお、電波の通り道に山やビルなどの障害物がなくても、通信距離が長くなると大地(地球)が障害物になり、通信できる距離を制限してしまいます。通信できる最大の距離は、お互いのアンテナの高さで決まります。


 アンテナの高さで変わる通信距離

たとえば、お互いのアンテナの高さを9mとすると、通信できる最大距離は
4.12(√9+√9)≒24.7km
と計算することができます。アンテナをもっと高くすると、この距離が延びることになります。

2.物体(導体、大地など)で「反射」する

電波は周波数が高いほど直進する性質が強くなり、障害物で遮られやすくなります。この性質を逆手に取り、金属板などの障害物を意図的に設置して電波を「反射」させることで、障害物にさえぎられた場所にも電波を届けることができます。


金属板などの障害物で反射する

また、私たちが暮らす地球の上空(数百kmの高さ)には「電離層」という巨大な自然の反射板が存在しています。電離層は目には見えませんが、ある決まった周波数の電波を反射して、数千kmもの距離を隔てた相手へ電波を届けてくれます。この性質により、海外のラジオ放送が日本でも受信できます。


 電離層で反射する

3.密度の異なる大気中で「屈折」する

大気の密度は地表の近くと上空とで異なり、上空へ行くほど大気が薄くなって密度が小さくなります。電波が大気の中を伝わる速度は大気の密度によって変わるため、アンテナから発射された電波は上空へ向かうときに少し曲がって進みます。この現象を「屈折」といいます。


上空で屈折する

水を注いだコップに割り箸を斜めに入れると、割り箸が曲がって見えますね。これも同じ現象であり、空気の密度と水の密度が異なるために空気と水の境目で「光の屈折」が起きているのです。

4.エッジ形状の物体や地形などで「回折」する

電波は山岳の険しい尾根やビルなど、「エッジ形状の障害物」の頂部に当たると折れ曲がって進み、障害物の後方へ伝わります。この現象を「回折」といいます。


エッジ形状の障害物で回折する

本来なら送信アンテナから見通せる場所にしか届かないFMラジオ放送やテレビ放送の電波が実際には山やビルに囲まれた場所でも受信できるのは、この現象のためなのです。

この他に、低い周波数の電波は「大地に沿って比較的遠くまで伝わる」という性質があります。たとえば、「中波」という電波を使っているAMラジオ放送の電波は、条件が良いと、途中に山があっても数百km離れた場所まで伝わります。


大地に沿って伝わる

旅行先で、地元のAMラジオ放送の周波数に合わせてみると、意外な場所で聞こえることに驚くかもしれません。

5.物体に当たって「散乱」する

電波は円筒形や球形の物体に当たると、複数の方向へ散らばるように伝わります。この現象を「散乱」といいます。
電波が当たったときに「散乱」を引き起こす物体は、航空機や金属製ポールなどの構造物の他に、雨や氷の粒子などがあります。


物体に当たって散乱する

当社が高いシェアを誇る気象レーダーは、アンテナを回転させながら電波を発射し、雲に含まれる雨や氷の粒子に当たって散乱した電波を受信・解析して、雨や雪までの距離や、それらの強さを観測しているのです。

次回は無線通信に影響をおよぼす電波の性質

今回説明したように、電波にはさまざまな伝わり方があり、これらの伝わり方を生かすことで、電波が私たちの暮らしを支えているのです。
次回は、無線通信に影響をおよぼす電波の性質について解説します。